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そう言ってマティアスは笑った。
まるで脈絡のない言葉のように思えた――そもそも話をしていたわけでもなかった。いつものようにマティアスから声をかけられ、それで自分は何と言っただ…
たった一羽、しなやかな翼に風を捉えて。灰色に覆われた全身のなかでたったひとつ、尾羽だけがぽつりと黒い。
年月を過ごすうちに半ば朽ち、半ば繁茂する蔦に覆われた古塔だった。きっかけもなく、なにかひとつの強い原因があるでもなく、塔はただ背負った時間の重みに耐えきれず崩れ落ちたようだった。
寝ても覚めても明けても暮れても、何をしていようがどこにいようが、ただ鳥が鳴いているということを考えてしまう、意識というものの上に覆いかぶさるようにして。
――壊れていた? けっきょく、どちらも同じこと。かたく鎖されていた門は暴かれ、いまやその裡の秘密を守るものはなかった。もちろん物理的なものではない、比喩としての錠前。
歩道に沿って坂を下りていく。人々の話し声、行き交う音、時折混ざりこむ自転車のベル。打って変わって騒がしい道々を、彼らは並んで歩いていく。二人の背丈はほとんど変わらないように見え…
日の出から日没までと大きく書かれたいささかくたびれ黒ずんだ横断幕が少しの風になびきながら神社の境内の端にかけられるその横でこの日を欠かさず楽しみに待ってきたいくにんもの人々がぽつ…
まだらに生えた羽根を引き抜く、一本、一本、また一本。
雨に濡れたように光る傷口、ぎざぎざに尖った肌とその下の肉。
指先はとうてい近寄ることはなかった。少なくとも、その日、その年、その刻限、兆しのような道を踏み越えるそのときまでは。
我慢できないわけじゃなかった。
そんなことはわかっていた。自分がいちばん、こんなことでって思ってる。
いつも、どんなときでも、それがどのくらいちっぽけなものかなんて、すごく…
ええ、ええ、どれひとつとして欠けては成り立たない、非常に大切な工程を踏んで書きました―紙の支度からインクの手配、そうして一字一句、私からあなたへ向ける言葉たち、最後に封をするに至…
とっくに死んでしまった者なのだと。
けれどもそいつには、そんな素振りはまるでなかった。
*高校時代にはじめて書いた小説のひとつです。
そしていま、彼の目の前には女がいる。
寂しい肩をした、無口で静かな《女》だ。
*高校時代にはじめて書いた小説のひとつです。
刻は夜半。
三日月の照るなかを、憑かれたように足は進んだ。
*高校時代にはじめて書いた小説です。
探していては見つからない。蜂蜜の皿は神の皿。
(それを手にしたものは神のように幸福になれる)
*高校時代にはじめて書いた小説です。
両脚が旋回する――鮮やかな跳躍/反転/ねじれ/渦=靴底を叩きつけた先の、地面に大きくあいたクレーターのひどくロマンチックなまろやかさ。そのまま、戦闘ヘリの頭上高く投げ出されるよ…
そこにはいつと変わらぬ月と星、汲み尽くせはしない夜の暗さと深みがあった。彼女と同じ名を持つ夜が。
真っ黒に濡れたアスファルトが、あちこちの光を映しこんできらきら、ちかちかと瞬いている。赤に、青に、黄色に。ところどころは虹色に。……。
椅子の上で、私は「んんん」と間の抜けた声を出して伸びをする。
「なんかお腹空いたね」
大きな寸動鍋を火にかけながら、鉄子が笑った。
「お鍋なんか使うから余計にね」
「糊もおい…
