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もう、人間界には戻りません
掲載: 小説家になろう
作品紹介
夜会の隅で、私は涙を流さなかった。
婚約破棄を告げる声は、王太子の口からではなく、宰相補佐の手元の通達書から、事務的に読み上げられた。
中央で泣くのはお義妹様で、王太子はその涙を拭うのに忙しい。
私は中央に進んで、指輪を、お義妹様の掌に、そっと、置いた。
「お幸せに」とだけ告げて、踵を返した。
その時、夜会の天井が、銀の月光と共に、砕けた。
降り立ったのは、銀色の髪の青年だった。
人ではない、と、見ればすぐに分かった。
「ようやく、迎えに来られた」
低い声には、私が知らないはずの長い時間が、乗っていた。
公爵令嬢ヴィオラ。
七歳で母を亡くし、義妹に手柄を奪われ続けた、十九歳。
胸元のロケットには、母様の形見の、深い青の宝石。
その宝石と、彼の瞳は、同じ色をしていた。
なぜ、彼は、私の好物を知っているのか。
なぜ、宮殿の中庭には、私が七歳の春に一度だけ呟いた、青いリンドウだけが咲いているのか。
私の意識が遠のく前、女性の声が、囁いた。
それは、知っている声だった。
「お母さまは、あなたを千年待った人のもとへ、送りたかったの」
千年。
その言葉だけが、最後まで、私の中に残った
婚約破棄を告げる声は、王太子の口からではなく、宰相補佐の手元の通達書から、事務的に読み上げられた。
中央で泣くのはお義妹様で、王太子はその涙を拭うのに忙しい。
私は中央に進んで、指輪を、お義妹様の掌に、そっと、置いた。
「お幸せに」とだけ告げて、踵を返した。
その時、夜会の天井が、銀の月光と共に、砕けた。
降り立ったのは、銀色の髪の青年だった。
人ではない、と、見ればすぐに分かった。
「ようやく、迎えに来られた」
低い声には、私が知らないはずの長い時間が、乗っていた。
公爵令嬢ヴィオラ。
七歳で母を亡くし、義妹に手柄を奪われ続けた、十九歳。
胸元のロケットには、母様の形見の、深い青の宝石。
その宝石と、彼の瞳は、同じ色をしていた。
なぜ、彼は、私の好物を知っているのか。
なぜ、宮殿の中庭には、私が七歳の春に一度だけ呟いた、青いリンドウだけが咲いているのか。
私の意識が遠のく前、女性の声が、囁いた。
それは、知っている声だった。
「お母さまは、あなたを千年待った人のもとへ、送りたかったの」
千年。
その言葉だけが、最後まで、私の中に残った
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更新情報
- 2026/05/03 全10部分
