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空き部屋の声、1986年の女

作者: ひまえび

作品紹介

2026年1月、ホーチミン。社長職を息子に譲った早乙女尚人〈62〉は、自分の高層ビル最上階で暮らしを立て直していた。湿った熱気の外とは別に、室内は冷房の乾いた空気が流れる。だが、空き部屋だけが不自然に冷え、水音のような気配が消えない。夜、天井へ呼びかけると「鳴海」という名と、『1986年』『関東』の断片が返ってくる。2023年に失踪した叔父・倉田俊介、行方の知れない女の影が、そこでつながり始める。 尚人は生活の要を崩さないため、住み込みのミン・ハと母リエンの役割を整理し、工場は別の人員で回す体制へ切り替える。夜の街では噂を拾い、焼肉屋『白松』の名を得る。体の不調を抱えたまま病院へ行き、看護師ハーと再会する。周囲の目を計る会話の中で距離が近づき、関係は静かに深まっていく。譲渡の手続きが進むころ、尚人はラウンジ『ルビー・ルーム』へ向かい、女の足跡を確かめようとする。 視点は1986年へ移る。22歳の尚人は、現金500万円と無記名の現物債を手に、昭和で稼ぐ道を選ぶ。横須賀でボクシングジムに通い、体を鍛えながら、名簿を条件に搬出作業を引き受ける。手に入れた社員名簿と連絡網を武器に電話をかけ、追

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