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創作能楽小説『黒椿』 翁付き五番立て

作品紹介

 夜、灯(ひ)のともる下で、人はいくつもの影を曳(ひ)く。その薄い影の群れに、ときおり、誰のものでもない一枚が紛れ込む。声で呼ばれ、応(こた)えてしまった者は、もう、帰らない。

 怪異を狩り、その首を椿のごとく落とす女がいる。守り刀ひとふりで、恨みも未練も、ことごとく銭に変える——その稼業ゆえ、人は彼女を〈黒椿〉と呼んだ。足音、晒し、終電、ただいま。市井にひそむ怪異は、いずれも、誰かの断ちがたい執心(しふしん)のかたち。名のあるうちは、斬れる。女は今宵も、無造作に、ひとつの花を落とす。

 されど、その胸の裡(うち)にも、ただひとつ、断つことのできぬ名がある。かつて、夜の影に攫(さら)われた恋人。名を呼べば、斬れる。されど呼ぶことは、永久(とこしへ)の別れにほかならない。増えてゆく影を数えながら、女は、灯の下を、ひとり歩く。

 翁(おきな)の言祝(ことほ)ぎに始まり、序破急の調べを経て、鬼の切能(きりのう)に至る——和の様式に現代(いま)の闇を盛り、一話ごとを都々逸の一句に結んだ、幽玄の怪異連作。

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