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エムルの夢 ― デバイスの原子が見えた日 ―

作品紹介

「きれいな波形が、怖かった」
二〇二四年の冬、病院の周産期評価室で、臨床検査技師の真知理亜瑠(まち・りある)は一つの違和感を持て余した。胎児心拍モニターの波形が、整いすぎていた。数値は正常域にあった。アラームは鳴っていなかった。医師も先輩も、問題はないと判断した。
それでも理亜瑠には、何かが引っかかった。
波形の終末部が、まるで定規で線を引いたように早く切れていた。生体の信号は、本来こんなふうに素直にならない。フィルタが、あるべき微細な揺れごと削り取っているのではないか。根拠はなかった。言葉にもならなかった。その夜、理亜瑠は黙った。
その夜に消えたものを、理亜瑠は五年間、手放さなかった。
工学の道具を覚えた。医療の材料を覚えた。数式を覚えた。覚えたものを全部使って、削らない機械を作ろうとした。欲しかったのは、処理の速い機械ではなかった。嘘をつかない機械だった。
医療機器のフィルタ処理という、現場で誰も疑わない「常識」に、一人の青年が五年かけて挑む物語。

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