これは記憶喪失だと宣言した悪の王女が、徐々に周りの人間に愛され始めているにも関わらず、頑なに死にたがる物語である。

悪の王女と言わしめ恐れられている、王国一の嫌われ者――ドロワ・エルフィン。
そんな彼女は十七歳の誕生日に、名ばかりの婚約者であったオベリスク・ハイマートを筆頭とした四人の元友人に、半年後の処刑宣告を受けた。
しかし、処刑宣告を受けた彼女はみっともなく命乞いをするどころか、穏やかに笑ったのだ。
――まるで心の底から安心した、これで終わりだとでもいうように。

それにより、元婚約者のオベリスクをはじめとしたあらゆる人間に一抹の不安を残したが、さらなる急展開を迎えたのは処刑宣告から三日後。

「昨晩にこのドロワ、階段から足を踏み外して転倒した際に後頭部を激しく強打したことが原因で、自分の名前以外の記憶をいっさいがっさい忘れてしまいましたあああ！」

そう叫びながら土下座をする彼女からは、あの悪の王女と言わしめた迫力は一切なかった。

どうして、そこまで彼女は死にたがるのか――その真実を知った時、誰もが自分を責めたという。