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「すぐ戻る」と幼馴染の元へ走った夫を、私は笑顔で見送りました

作者: かおるこ

作品紹介

結婚記念日の灯りが
テーブルのワイングラスに揺れていた。

焼きたてのパンの香り。
花屋で買った小さな薔薇。

私は今日という日を
少しだけ楽しみにしていた。

その時。

あなたのスマートフォンが鳴った。

震える指先。
変わる顔色。

そして聞き慣れた名前。

幼馴染。

あなたは立ち上がり、

「すぐ戻る」

と言った。

私は微笑んだ。

「いってらっしゃい」

と。

引き留めなかった。

袖も掴まなかった。

泣きもしなかった。

玄関のドアが閉まる音は、
思ったより静かだった。

私は一人で席に戻り、

冷めていくスープを見つめた。

湯気は消え、

期待も消え、

そして何かが終わった。

その夜から私は、

待つことをやめた。

帰りを待つ妻を。

信じる妻を。

許し続ける妻を。

少しずつ。

少しずつ。

まるで冬が庭を覆うように。

心は静かに冷えていった。

あなたは知らない。

私の笑顔が、

許しではなかったことを。

あなたは知らない。

私の沈黙が、

諦めではなかったことを。

あなたは知らない。

優しさの下で、

何かが静かに育っていたことを。

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