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『無能な妻の最後のご奉仕 —空になった貯金箱と、夫の余命—』

作者: かおるこ

作品紹介

『無能な妻の最後のご奉仕

—空になった貯金箱と、夫の余命—』

三十年分の朝が
台所の隅に沈んでいる

湯気は立っていた
けれど
言葉は立たなかった

「まずい」
その一言で
今日も一日が決まる

皿の音だけが
生きている証みたいに響く

封筒は軽くなっていく

食費
光熱費
老後

名前のついた未来が
少しずつ消えていく

「俺の金だろ」

その言葉だけが
重く残り続ける

それでも
願いは捨てきれなかった

弱れば
優しくなるかもしれないと

人は
希望の形をした鎖を
なかなか外せない

痛みが
彼を床に落とした日

初めて
“終わり”が
形を持った

白い部屋で
数字だけが告げられる

助かるかもしれない命と
足りないお金

どちらも
同じくらい遠かった

通帳は
静かだった

そこには
何も残っていなかった

使われた時間と同じだけ
使われたお金

誰も止めなかった
三十年分

「金を用意しろ」

その声が
最後の命令だった

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