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思い出未満

作者:

作品紹介

コーヒーを一口飲む。目頭がじんわり熱くなった。微熱があるのだろう。季節の変わり目はいつもこうだ。だけど僕は、それがとても嬉しかった。今日はきっと、紬に会える。
コーヒーの湯気がゆらりと揺れて、視界が少しだけ霞む。カップを置くと同時に、体の力がふっと抜けた。

夢の香りがする。
少し古びた木の香りと、冷たい光がまざったような、懐かしい空気。

ゆっくり目を開けると、いつもの景色が広がっていた。曇りガラス越しに柔らかな朝の光が差し込み、部屋の空気は水の中みたいにゆらゆら揺れている。

「おかえり、律。」
白い指先で窓の曇りをなぞりながら、紬が微笑んでいた。
「ただいま、紬。」
声がかすれる。

紬は窓辺から離れ、こちらへ歩いてくる。床板が軋む音ひとつ立てないその足取りは、軽やかで、どこか無機質。

「今日は、ちょっと顔色が悪いね。」
そう言って心配そうに覗き込んでくる。
「いつもより、熱が少し高めみたい。」
そう言うと
「そう、じゃあ長くここに居られるね。」
くすくすと笑い声が響く。

紬は窓の外の曇り空を見上げ、指先でガラスに触れた。刹那、薄く曇っていたガラスがふわっと白く濁る。

「冬

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