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「殿下と二人だけの合言葉を、わたくしだけが覚えておりますの」

作者: 歩人

作品紹介

伯爵令嬢イヴリン・ファルケンシュタインは、十三歳で第三王子の乳母になった。夜泣きを抱き、熱を冷ますうちに、二人だけの合言葉が生まれた。絵本の三十二ページの挿絵を合図にする鼻歌、肩を叩く三回のリズム、夢で会ったと伝える暗号——誰にも教えなかった。
 婚約者の近衛大尉は「令嬢の品位を乳母歴が汚す」と断じ、婚約を破棄した。イヴリンは殿下に別れを告げぬまま、辺境の孤児院へ去る。
 三ヶ月後、王宮で陰謀が起きた。第一王子派が「第三王子は替え玉だ。本物は海外留学中に死んだ」と告発し、王子の首に剣を突きつける。議会は判別できない。書類は完璧に偽造され、影武者は容姿まで一致する。
 議場に引き出された王子に、第一王子が問う。「お前が本物なら証明してみろ」。
 王子は答えない。ただ、肩を三回——叩いた。
 議会が、凍りつく。その合図を知る者は、この国に、ただ一人しかいない。

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